父のことを、どこから話せばいいのか、今でもわかりません。
父は地元で知られた経営者でした。会社を大きくして、地域の人たちにも顔が広くて。でも、私にとっての父は、「よく知らない人」でした。
食事のとき、父はほとんど話しませんでした。テレビを見て、お酒を飲んで、早々に寝室に戻っていく。そういう人でした。
「お父さんはどんな人なの?」と友達に聞かれても、答えられなかった。怖い人でもなくて、やさしい人でもなくて。ただ、そこにいる人、という感じ。
子どもの私には、それがとても寂しかった。
父が亡くなったのは、私が結婚して子どもが生まれた頃でした。
葬儀の日、父の会社の人たちが大勢来てくれました。「お父さんには本当にお世話になりました」「あの人がいなければ今の私はなかった」と泣いている人が何人もいて。
私は、その場でぼうっとしていました。「そんな父を、私は全然知らなかった」と思って。
後悔が残っています。もっと話しかければよかった。もっと知ろうとすればよかった。
でも、きっと父も不器用だったんだと今は思います。どう接していいか、わからなかっただけかもしれない。
だから私は今、大切な人には「会いに行く」「話しかける」と決めています。後悔を繰り返さないために。
眠れない夜に、父のことをよく思い出します。あの頃、もっとそばにいてほしかった。それだけです。
ゆっくり眠れることが、どれだけ大切か。歳を重ねてから、しみじみ感じています。
