もうすぐ、長年勤めた会社を退職できるかもしれません。うれしいはずのその予感が、私にはずっと重く、怖いものでした。「これから、ひとりでどう生きていけばいいのだろう」──そう考え出すと、夜も眠れなくなっていきました。
そして先日、その不安の大きさに、体のほうが先に音を上げてしまいました。今日は、そこから思いがけない出会いにつながった、私の体験をお話しします。
不安が、体調を崩した日々
ある日、急に体調を崩し、数日間ほとんど動けなくなりました。水を飲みに行くことさえつらく、「これはもう病院に行った方がいいのでは」と思うほどの状態でした。幸い、同居している息子がそばにいて、飲み物や食事の世話をしてくれたおかげで、なんとか乗り越えることができました。
振り返ってみると、退職とその先の一人暮らしへの不安が、知らないうちに心と体を追い詰めていたのだと思います。60代になると、ストレスは若い頃よりずっと直接、体に出てくるものだと実感しました。
体力を確かめるための、小さな外出
3日ほど経ち、少し動けるようになった日、「体力が戻っているか確かめよう」と、近所まで買い物に出かけてみました。無理はせず、行って帰ってくるだけの、ささやかな外出です。
その帰り道、ふと目に入った一軒の建物に、こんな看板が出ていました。
「どなたでもご自由にお入りください」
地域のコミュニティスペースのようでした。ちょうど「これからは社会とのつながりが必要だ」と考えていた時期だったこともあり、気づけば車を停めて、玄関の扉を開けていました。
懐かしい顔との再会
中に入ると、賑やかな声が聞こえてきました。年齢を重ねた方々が、楽しそうにおしゃべりをしています。その空気だけで、なんだか肩の力が抜けていくのを感じました。
奥からトコトコと出てきてくださった方の顔を見て、はっとしました。どこかで見たことのある、覚えのある顔だったのです。私も相手も、しばらく「あれ?」という顔をしていましたが、少し話すうちに、お互いに思い出すことができました。
今の気持ちを正直にお話ししました。もうすぐ会社を辞めること。これから一人になる不安を抱えていること。社会とのつながりが欲しいと思っていたこと。
すると、その方はこう言ってくださったのです。
「来て!手伝って!……なんて、主催しているだけで大したことはしていないんだけど。でも、手伝ってくれたら本当にうれしいわ」
「楽しみ」が、自分の手の中にやってきた
その一言で、私の中に、久しぶりに温かいものが灯りました。会社を辞めたあとの「楽しみ」が、探さなくても、向こうからやってきてくれた。そんな気がしたのです。
ずっと「退職後の不安」ばかり考えていましたが、こうして動いてみることで、思いがけない形で道が開けることがあるのだと知りました。もちろん、これは偶然のようで、偶然ではないのかもしれません。体調を崩しながらも「まずは外に出てみよう」と決めたこと、そして長年その地域で過ごしてきた時間があったからこそ、覚えていてくださる方がいたのだと思います。
体調を崩したときに実感した、ひとりの心細さ
今回のことで痛感したのは、体調を崩したときの心細さです。水を取りに立つことさえつらいとき、そばに誰かがいてくれるだけで、どれほど安心できるか。息子がまだ一緒にいてくれる今のうちに、こうした「もしも」への備えを考えておかなければと、強く思いました。
常温で飲める経口補水液や、火を使わずに食べられるゼリー飲料を、普段から少し多めに常備しておくこと。近所に頼れる人やつながれる場所を、元気なうちに見つけておくこと。これらは、これからひとり暮らしになる方すべてに伝えたい備えです。
退職を控えるあなたへ、伝えたいこと
これから定年や退職を迎える方の中には、私と同じように「一人になったらどうしよう」と不安を抱えている方が、きっとたくさんいらっしゃると思います。
お伝えしたいのは、その不安は体にも表れるということ。無理をせず、つらいときは休んでいいということ。そして、少し動けるようになったら、ほんの小さな一歩でいいので、外に出てみてほしいということです。
散歩でも、買い物でも構いません。地域には、思っているよりずっと多く、「どなたでもどうぞ」という場所があります。看板ひとつ、ポスター一枚から、新しいつながりが始まることもあるのです。
お金の備えも大切です。でも同じくらい、体を動かせる元気と、話せる相手がいる場所。この両方があってこそ、退職後の毎日は安心できるものになるのだと、今回のことで改めて感じました。
おわりに──不安の先に、ちゃんと道はある
退職まで、まだ少し時間があります。それでも、私にはもう「行きたい場所」ができました。手伝わせてもらいながら、新しい仲間との時間を、少しずつ育てていきたいと思っています。
もし今、退職や一人暮らしを前に不安な気持ちでいる方がいたら、伝えたいです。あなたにも、きっとまだ出会っていない場所と人が、近くで待っているかもしれません。

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