父は成功した経営者だった。でも、話したことがほとんどなかった

自由に

父のことを、どこから話せばいいのか、今でもわかりません。

父は地元で知られた経営者でした。会社を大きくして、地域の人たちにも顔が広くて。でも、私にとっての父は、「よく知らない人」でした。


食事のとき、父はほとんど話しませんでした。テレビを見て、お酒を飲んで、早々に寝室に戻っていく。そういう人でした。

「お父さんはどんな人なの?」と友達に聞かれても、答えられなかった。怖い人でもなくて、やさしい人でもなくて。ただ、そこにいる人、という感じ。

子どもの私には、それがとても寂しかった。


父が亡くなったのは、私が結婚して子どもが生まれた頃でした。

葬儀の日、父の会社の人たちが大勢来てくれました。「お父さんには本当にお世話になりました」「あの人がいなければ今の私はなかった」と泣いている人が何人もいて。

私は、その場でぼうっとしていました。「そんな父を、私は全然知らなかった」と思って。


後悔が残っています。もっと話しかければよかった。もっと知ろうとすればよかった。

でも、きっと父も不器用だったんだと今は思います。どう接していいか、わからなかっただけかもしれない。

だから私は今、大切な人には「会いに行く」「話しかける」と決めています。後悔を繰り返さないために。


眠れない夜に、父のことをよく思い出します。あの頃、もっとそばにいてほしかった。それだけです。

ゆっくり眠れることが、どれだけ大切か。歳を重ねてから、しみじみ感じています。

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父の書斎に、一度だけ入ったことがあります。父が入院したあとのことです。棚には古い帳簿が並んでいました。手書きで、びっしりと数字が書かれていました。あの几帳面な字を見て、はじめて「父が毎晩、これを書いていたのか」と気づきました。リビングで無口にテレビを見ていた父は、書斎でひとり仕事のことを考えていたんですね。

父の遺品を整理していたとき、一枚の写真が出てきました。若い頃の父と、幼い私が一緒に写っている写真。父の表情がやわらかくて、思わず「こんな顔をすることもあったんだ」とつぶやいてしまいました。その写真は今も私の手元にあります。

父と同じ年齢に近づいてきた今、少しずつ父のことがわかってくる気がします。自分も忙しくなってわかった。人に弱いところを見せるのが苦手な人間がいる、ということ。父はそういう人だったのかもしれません。自分の気持ちを言葉にするのが不器用なだけで、家族のことを思っていなかったわけじゃない。今はそう思えます。

60代になって思うのは、「わかり合える時間は、思っているより短い」ということです。親だけでなく、友人も、パートナーも同じです。元気なうちに、会いに行く。電話でもいい。ちょっとした一言でいい。「最近どうしてる?」というメッセージひとつが、どれだけ相手にとってうれしいことか、歳をとってからじんわりわかってきました。

後悔の数を、少しでも減らしたい。それが今の私の正直な気持ちです。手仕事を続けてきた理由のひとつも、きっとそこにあります。父には伝えられなかった「一生懸命生きています」という気持ちを、布に込めているのかもしれません。そんなことを考えながら、今日もミシンの前に座ります。

家族との時間は取り戻せない。だからこそ、今ここにいる人たちを大切に。60代のセカンドライフは、そういう気持ちで歩んでいきたいと思っています。

父の話を書いていると、どうしても「あの頃に戻れたら」と思ってしまいます。でも、戻れないからこそ、今を大切にするしかない。60代になって、やっとそう思えるようになりました。

子育てが終わり、自分のペースで毎日を過ごせるようになった今、ふと気づくと父のことを思い出します。あの沈黙は何だったのか。あの厳しい顔の裏には、何があったのか。今となっては聞くことができないけれど、想像することはできます。

「お父さんのことが好きだったよ」と言えなかった。それだけが心残りです。でも、その後悔があるから、今の私は大切な人に気持ちを伝えようとしている。父のことを思うたびに、自分を奮い立たせることができる。そういう意味では、父はまだ私を支えてくれているのかもしれません。

最近、日記を書くようになりました。その日あったこと、思ったこと、感じたことを少しずつ残しています。父が帳簿を毎晩書いていたように、私も自分の記録を残していこうと思って。読み返したとき、「こんなことを考えていたんだな」と気づくことがある。そういう積み重ねが、人生を豊かにしてくれる気がします。日記を書く習慣を始めてみたい方には、書きやすいノートがあると続けやすいですよ。

まとめ:大切な人との時間を、もっと大切に

父のことを思うたびに、「今ここにいる人を大切に」と心に誓います。60代のセカンドライフは、後悔を減らし、感謝を増やしていく時間。そう思って、今日も一歩ずつ前に進んでいます。


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